並び語られる話の裏であり
 並び語られる話の表である

 これは、精霊を連れた少女のおはなし。
 精霊を連れた少女のおはなしが、
 始まる前の、おはなし。





 十二月十四日。

~Interlude 香坂初羽~
 それは何も起きなく、平凡な、いつもの朝でした。
 私、香坂初羽の一日は親友の桐生絢を起こすところから始まります。
「絢ー、朝だよー!」
「んんー…」
 絢が起きてこないのでもう少し自己紹介。
 私たちは、海西学園高等部の1年生です。
 絢とは私が転入して来た頃からの親友で、同時にルームメイトでもあります。
 絢との出会いには、いろいろありましたけど今はあんまりのんびりし過ぎていると遅刻しそうですからその話はまた今度。
「あーやー!起きてー!」
「くー…」
「おーきーなーさーいー!」
「うーん…うるさい……」
 ぷちっ。
 私の中の何かがキレました。
 人がわざわざ起こしているのに「うるさい」ですって?
 いくら穏和な私でも怒るというものです。
「いい加減起きなさい!!」
「うひゃああああ!!?」
 さすがに頭から水を被れば起きますよね。
 …冗談ですよ?布団を剥いだだけです。
「なに!?なんなの!?」
「朝ですよ。朝ご飯にしましょう」
「あ、う、うん」
 絢は起きるまでは手強いですが、一回起きれば意識ははっきりしてくれるので幸いです。起きるまでが大変なんですけどね。
「うーん…、今日の朝はなに?」
「今日は和風にご飯と目玉焼きです」
「なんか初にしては手抜きじゃない?」
「ごめんなさい…実は私も寝過ごしてしまって」
「前にも言ったけど初が大変なら私は…」
「前にも言いましたよ?私が好きでしているんですから気にしないでくださいって」
 寮生活の朝ご飯は、学食に行くか、購買でパンを買うかのどっちかが寮生の基本となっています。
 ですが、寮の部屋には狭いながらもキッチンと冷蔵庫があるので、自分たちで作ることもできます。
 私は、経済的な面やお昼の弁当を作る関係もあり、自分で朝ご飯を作っています。
「ナー」
「はいはい、ちゃんとクロの分もあるからね」
 クロというのは私が連れている猫で、私がこの寮に来る前からずっと一緒にいます。
 もちろん寮は原則ペット禁止ですが、この子は特別な事情があるので平気です。
「いただきます」
「どうぞ」
 もうすっかりと目を覚ました絢と朝ご飯を食べる。
 絢は好き嫌いがあまりないので、作る側としては少し物足りない感じもしますが、美味しそうに食べてくれるとやっぱり嬉しいものです。
 朝ご飯を食べた後は絢が食器を洗っている間に私は制服に着替えます。食器はご飯を作ってない人が洗うというのは絢が言い出したことで、絢がご飯を作ってくれた時は私が洗う当番です。洗った食器は、学校から帰ってくるまで食器かごに入れっぱなしです。
 食器を洗い終えた絢も制服に着替えて私たちは寮を出て学園に向かいます。もちろん、戸締まりはしっかりと。
 海西学園と寮は少し離れたところにあり、徒歩約10分かかるので、あまりぎりぎりに寮を出ると遅刻になってしまうこともあります。
 今日の天気は晴れ。清々しい天気です。天気がいいと気持ちも晴れ晴れとします。
 昨日はいろいろと大変だったけど、今日はいい一日になりそうな予感です。
~End Interlude~



 ――香坂初羽(こうさかういは)と桐生絢(きりゅうあや)。
 二人は海西学園の生徒であり、そこで学生として過ごしている。クラスは共に1-C。
 しっかり者で、世話焼きの初羽は親友の絢からは初(うい)と呼ばれている。
 両方に縛ったツインテールの髪形、平均的に見れば小柄な体つき。
 初羽の特徴を簡単にまとめればこんなところだろう。
 一方、絢は面倒がり屋で物事ははっきり言う性格だ。しかし、実際は面倒見がよく、俗に言ういい人である。本人はあくまでも否定しているが。
 腰のあたりまで届くさらりとしたストレートヘアに初羽よりは高いが、平均よりは低い身長。それが絢の特徴だ。
 二人は桜の咲く頃、春の季節に出会い、そして色々あって友達になった。
 それは性格の相性か、それとも人には言えない秘密の共有か、その理由は本人たちにしか分からない。
 いや、そんな理由などなくても二人ならきっと友達になれただろう。
 それほど、二人の仲は良かった。――



~Interlude 桐生絢~
「今日はいい天気だね」
 朝の通学途中、初が言った。
 曇り空だった昨日と違い、今日は晴れの天気。
 確かに、今日はいい天気と言えるんだろう。
 だけど季節は冬。どんなにいい天気だろうが寒いものは寒い。
「…寒い」
 ついでに眠い。
「ほら、しっかりしないと危ないよ?」
 そんなこと言われても眠いものは眠い。別に寝なくてもなんとかなるだろうけど昨日のことを考えればできれば寝たい。
「ごめんね、絢」
「いきなりなに言ってんの?」
「昨日、私が夜遅くまで付き合わせちゃって…」
「あぁ…」
 昨日、私と初は街を出歩いていた。
 私は特になにかを見つけたわけではなかった。でも、初がなんか気になったことがあると言って、街中を回ったんだけど、結局はなにも見つからなくって睡眠時間だけが削られる結果になってしまったんだっけ。
「別に初の所為になんてするつもりないわよ」
「それでも私が原因ですから」
「気にしないわよ。どうせ授業中に寝ればいいんだし」
「絢、授業はちゃんと聴かないと駄目ですよ」
「あー、はいはい」
 もう…、初が呟くのが聴こえる。
 別にそれで卒業できなくなるわけじゃないからいいじゃない。
 それに、なんだかんだ言っても初だってたいして真剣に授業を受けているわけじゃないってあたしは知っている。
 それにしても初は朝御飯を用意する分あたしよりも早く起きているはずなのに全然眠そうに見えない。朝強いのは少し羨ましい。
 あー、だめ。眠い……。
~End Interlude~



 ――A県水那市。一見、普通の中都市である街に、二人が通う私立海西学園はある。
 特別名門というわけではないが、偏差値は決して低くない。
 しかし、偏差値が高い学園だからと言って全員が好成績を取っているわけではない。
 どこの学園にもあるもので、同じ偏差値で入ったはずなのに、勉強をせず堕落して赤点を取る生徒もいれば、寝る間を惜しんで勉強する生徒もいる。全く勉強せずに要領だけで好成績を収める生徒もいれば、日頃の態度で内申を稼ごうとする生徒もいる。
 学園の内側は、社会の縮図とはよく言ったものだ。狭い教室の中だけでも様々な人を見ることが出来る。
 今は1現目の数学。
 初羽は傍目、真面目にノートを取っている。だが、昨日の疲れが残っているのだろう、ノートの字はひいき目に見ても読めたものではない。
 絢は眠気を隠そうともせず机に突っ伏し熟睡している。他の人には見えないが、絢の膝の上ではクロが丸くなって寝ている。
 もっとも、この先生は寝ていても注意しない人物ということを絢は調査済みである。仮に注意してくる先生だったとしても仮病を使い保健室に逃げ込んでしまうのだが。
 二人が疲れるまで昨日起きていた理由。街を徘徊していた理由。
 それは、この街に噂されることに関係していた。――



~Interlude 香坂初羽~
 白い、なにもない空間。私はそこに立っていた。
 同時に、私はこれが夢なんだってことがわかった。
 夢の中には、私の他に誰もいない。それだけはちょっと残念。
 昨日のことがあったから、彼と少しぐらい話をしたかったです。
 たとえほんの少しの時間でも、彼と話せたら疲れもなくなると思うんですけど…。
 …愚痴っても仕方ないですね。今は、彼はいないんですから。
 …それでも
 …それでも、ほんの少し弱音を吐いてしまうことを許してほしいです。
 私の隣に、あなたは今居ないんですから……。

「――い………初ってば」
「ん……」
 絢に呼ばれたような気がして顔を上げる。
「もう授業終わったわよ」
「…え、え?」
 見れば先生の姿はなく、弁当を広げている子も見受けられます。
 と、いうことは私授業中に寝てしまったんでしょうか!?
 うわぁ…いくら疲れていたと言っても失態です。後で誰かからノートを写させてもらわないといけません。(おそらく絢はノートを取っていないでしょうから)
「お昼、食べに行くわよ」
「は、はい。そうですね」
 私と絢はお昼を食べるため教室を後にしました。
 学生のお昼と言えば、学食、購買と決まっているけどこの学園も例外ではなくてお昼時には戦場と化します。
 絢が一緒なら戦場時の学食、購買でも戦う術があるけれど、そんな労力を割くのは嫌という絢の一言で私たちは弁当派です。
 私たちは弁当箱を持って教室を出ました。屋上に行くためです。
 この学園の屋上は原則出入り禁止だけど、天文部の活動や、学校行事の準備のためなら出入りすることができます。
 お昼に屋上に出るのは許可されていないけど、絢はなぜか屋上の合鍵を持っていて、誰も立ち入りしない屋上は私たちの憩いの場でもあります。
 それに私たちは、誰にも聞かれたくない話をすることも多々あるので誰も来ない屋上は、絶好の場所でもあります。
 ただ、天気のいい日や暖かい日ならいいのですが、雨の日や冬の寒い日は屋上で食べるなんてことは出来ません。
 なので今日みたいに寒い日とかは、屋上前の踊り場でお昼を食べることにしています。
 ビニールシートを敷いてその上に座る。
 今日のお昼は、昨日の夕食の残りと朝作った卵焼き。
「ごめんなさい、今日は手抜きな感じになってしまって…」
「いいよ初。昨日は大変だったんでしょ?」
 そう、昨日は大変だったのでした。
「昨日の事について話したいけど今日はあまり時間がないから先にご飯食べよ」
 その心遣いが、私には嬉しいものでした。
 絢は私とルームメイトになるまで学食派でしたが、私が経済的ではないとか栄養が偏るとか言って、弁当に変えさせたのです。
 だから絢にちゃんとした弁当を作るのは私の義務なのに。
 前にも同じことがあったことがあります。
 その時、絢は私がしてもらっていることだから作ってもらえるだけで嬉しいって言ってくれました。
 絢はそういう気遣いができる優しい子です。
 それは私が絢に憧れるところで、少し嫉妬したりもするところです。


 放課後、私と絢は街に出かけていました。
 一つは今日の夕飯の買い出し。そしてもう一つは昨日の件について。
 私は歩きながらも周りを観察していました。
 そして絢も、私と一緒に街中を歩いていました。
 絢は口では面倒だとか言いますけど、それでも私に付き合ってくれます。
 絢には絢の事情があるのですが、それでも私に付き合ってくれる絢に、私は感謝しています。
 スーパーで夕飯の買い物をする前に、昨日の件もあるため、街をぶらつきます。
 こんなことをして半年も経ち、今では私たちに声をかけてくる人もいます。
「初ちゃん、今日も見回りかい?」
「あ、おじさん、こんにちはです」
「おう、こんにちは!そうだ!こいつ持っていきな!サービスしてやるよ!」
 そう言って、おじさんは新聞紙にコロッケを包んでくれました。
「いつもありがとうございます」
「いいってことよ!絢ちゃんもまたな!」
「は、はい…」
 絢は小さい声で答え、しばらく歩くとため息をつきました。
「はぁ…」
「どうしたの?絢」
「いや、初は人気者だなって思ってさ」
 私が人気者なんじゃない。ただ、みんなが優しいだけ。
 私はそう思っています。それに絢だって人気者だ。絢はあまり他人の事に関心を持っていないけど、絢のことを知っている人は結構いると思う。さっきのおじさんだってそうだ。
 けれど絢はあまりそういうことを実感できないみたいです。
「人見知りのあたしからしたら初は凄いって思う」
「よくわかんないです」
「他の人のためにさ、あたしは初ほど真剣になれないから。少し羨ましくもあるよ」
「絢もやればいいのに」
「いや、面倒」
 結局、絢はいつもそう締めくくってしまいます。
 だけど、そんなことを言ってもなんだかんだで困っている人がいたら手を差し伸べてあげられる優しさを持っていることも私は知っています。
「それより、今日はなんにもなさそうだね」
 絢がそう言いました。
「そうだね、昨日のは何かの勘違いだったのかな…」
 昨日の件。実は昨日、私たちは見回りをしている時、なにか変な気配を感じたのです。
 それで夜遅くまで見回りをしていたのですが、結局何も見つからず、今朝の事に繋がります。そして寝坊してしまうんですが…。
「んー、どうだろ?今日はたまたま見つからないのかもしれない」
「それはそれで困るんですよね…」
 私も絢も、この類の異変を感じることには長けていた。
 もし、昨日のことがただの杞憂で済むのならいいのだけれどそうでないとしたら…。
 それだけは、絶対に避けたいところです。
「でも先にあたし達がまいったら元も子もないってこと分かってる?初」
「はいはい、今日はいつも通りに帰ります」
 絢は私よりもこういうことに慣れている分、私は絢の言うことには耳を貸すようにしています。
 面倒と言って、それでも付き合ってくれる絢に私は感謝しています。
 私たちは探索を早めに切り上げて、おじさんにいただいたコロッケを手に寮へ帰ることにしました。

「あーっ!忘れていました!」
 寮に戻り、夕食を作って絢と一緒に食べた後のこと。
 冷蔵庫の中身を見て私は大声を上げてしまいました。
 同じ部屋にいる絢に聴こえないはずもなく、絢も台所まで来ます。
「どうしたの初?って、冷蔵庫空っぽじゃない」
「はい…。コロッケをいただいたことですっかり忘れていました…」
 そういえば昨日から買い物に行ってませんでした。このままでは明日の朝ご飯や弁当を作ることができません。
「私、今から買い物に行ってきます」
 私はコートを羽織り、財布を持って出かけようとしました。
「待って、あたしも行くわ」
 絢も身支度を始めたのでした。
「いいよ、絢はここで待ってても」
「念のためよ。昨日のことが勘違いとも言い切れないんだし」
 昨日のこと、些細な違和感のことでしょう。
 確かにまだ勘違いとも言えませんから絢と一緒にいた方が安全かもしれませんが…。
「ほら、早く行って帰りましょ」
 私がまだ迷っている間に、絢はもう部屋から出て行ってしまいました。
 こうなったら、説得するのも無意味ですので、私も鍵をかけてから絢を追いかけました。
 やっぱり、なんだかんだ言っても絢は優しいです。
~End Interlude~



 商店街に戻り、大通りを歩く。
 既に日は落ちて、街は暗闇に包まれていた。
 それでも大通りは街灯で明るく、街は夜になってもその活気に陰りはない。
 だけど、いくら街は明るくても冬の寒さの厳しさまでは和らげてはくれなかった。
 その街中を、初羽と絢は歩いていた。
 それは、変わらない日常。

 ――運命の刻は 既に廻っていた――
 
「――――!!!」
「!絢!!」
「分かってる!」
 街に突然現れた異常。
 昨日感じた、異形の気配。
 間違いなかった。
 昨日のアレは、気のせいなんかじゃない。
「いったいどこから…」
「クロ!?」
 クロが一目散に駆け抜けていく。
 まるで、二人を案内するように。
 二人はクロを追って走る。
 街中を抜けていく。
「この先にあるのって…、きゃっ!?」
 その時、誰かが初羽にぶつかった。
 その人物はぶつかったことなど気にも留めず走り去って行った。
「今の……」
「初!早く行くわよ!」
「は、はい!」
 初羽は、その人物のことが気になったが、今は彼女のことを気にする時間はなかった。

 辿りついた廃ビル。
 そこは、ただ不気味な雰囲気だけが漂っていた。
「遅かったわね…」
 絢が呟く。
 廃ビルがそびえたつだけで、もはやなんの気配もない。
 辺り一面は剥き出しの土砂があるだけ。
 死体があるわけでもなければ、妖しげな気配などどこにもなくなっていた。
 これほどの手際の良さは自然発生するそれの類ではない。
 十中八九、何らかの意思を持つ者によるものだ。
 これほどの早業なら、なるほど昨日の件は気のせいかと勘違いもしてしまう。
 だけど、間違いない。この街でなにか起こり始めて、あるいは既に起こっている。
「どうするんですか?絢」
 初羽が絢に訊く。
 こういう事態は初羽よりも絢の方が経験している。その意味において、絢が判断した方がより適切な行動を取れる。
 先ほどの気配を追うか、それとも一旦退くべきか。
「このあたりの調査を…と言いたいところだけどやめておきましょう。こんな狭くて暗い場所で襲われたらたまったもんじゃないわ」
「うーん…わかりました」
 初羽は少し納得していないようだが、特に反対することなく絢の判断に従うことにした。
 絢もその気持ちはわかる。なにしろ、確実にこの廃ビルの周囲で気配がしたのは間違いがないのだから。
 だからこそ、この場所に長居をするべきではないと絢は判断したのだ。
 明らかに、今回の相手は気配を隠しながら行動している。そんな知恵の回るのを相手に不利な状況で相対するのは得策とは決して言えない。
 この場合、絢の判断は正しいと言える。
 結果として暗闇が覆っている廃ビルの惨劇を目の当たりにすることにならなかったのだから……。



~Interlude 香坂初羽~
 廃ビルから去り、スーパーで買い物をして寮に戻って数時間。
 結局、その後の気配は一度もありませんでした。
 寮に戻り、宿題を終え、お風呂に入って、ようやく緊張も解けて人心地ついた気分です。
 やっぱり、私も緊張していたんでしょう。疲れも出てきました。
 気配のことはまた明日、絢と調べることにしましょう。
 それにしてもまだ10時。少し寝るには早い時間です。
 宿題も終えて、特にすることもないので時間が空いてしまいました。
 久しぶりに文通をしている彼女に最近のことを書こうかな。
 私は机から便箋とシャーペンを取り出しました。
 ここ最近書いていなかったから何から書こうかな。まずはいつもの通り絢のことから書くことにしましょう。
 ちなみに絢は隣の机で漫画を読んでいます。
 私たちの部屋には隅に私と絢が半分ずつ出しあって買った本棚があり、そこには漫画本がぎっしり詰まっています。
 私も絢も漫画はあまり読んでいなかったのですが、私の文通している彼女がいわゆるオタクらしく、この漫画が面白いとか教えてくれるばかりでなく本を送ってくるのです。
 それがまた面白いので私や絢がその漫画の続編を買ったりして、一時期本が散乱した状態になってしまったので整頓のために本棚を買ったのです。
 文の内容が全て漫画の話だけで埋め尽くされることもあります。
 今ではメールで文通することもできますが、当時の私は病院暮らしだったので、便箋で文通をすることしかができなくて、今でもそれが習慣として続いていました。
 時々、事件のことを書いたりもします。彼女の助言で解決したことも決して少なくなかったりします。
 そうだ。今回の気配についても訊いてみようかな…。
 私は寝るまでの間、ずっと便箋と睨み合いをしながら文を考えていました。
~End Interlude~



 数時間後。
「えっと…こんな感じでしょうか」
「終わったの?」
「うん、もういいよ」
「よく続くよねそれ」
「慣れれば楽しいよ?」
「私はパス」
「絢は食わず嫌いなところがあるから…」
「はいはい、それよりも電気消すよ?」
「あ、待って。これ仕舞うから……うん、いいよ」
「じゃあおやすみ、初」
「おやすみなさい、絢」
 そして二人は一日を終えた。
 だけど彼女たちはまだ知らない。
 これから先、彼女たちを待ち受ける運命を―――





~Interlude 伊吹小春~
 夢を見ている。
 自分がぷかぷかと浮かんでいるような夢。
 何も見えなくて、何も感じなくて。
 それでも私が存在(いる)ことだけは分かる。
 私が、私でいることが分かる。
 どうしてこんな夢を見ているのか、どうしてこんな夢なのか。
 そんなのは問いかけても答えは出ない。
 答えなんて、存在しない。
 …そんな夢をずっと見続けてきたような気がする。
 あるいは、気がするだけで、本当は1分と経っていないのかもしれない。
 ………………。
 だけど、そう、分かる。
 私がこれから送る日常の欠片が。
 これから起こる何か、その未来が。
 そしてその先にあるなにかを見てみたい。
 それが……幸せな終末であることを願って。
 私は、夢を見続ける。

  其の 夢は 近い 内に 覚める
  運命の 歯車は 既に 廻り 始めていた

~End Interlude~



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